ホラーです

サーフィン帰りに実家に寄った。2年ぶりだ。エイが大発生してるとのことで、普段なら歩いて渡るところをパドリングで漕いでいかなければならなくて疲れてしまったのだ。もう眠くて眠くて、眠らないと危なくて運転できない。
僕は実家が好きではない。母が嫌いだからもあるけれど、建物の雰囲気自体が暗いのだ。雑草こそ刈ってあるものの器が割れて根が剥き出しになった鉢植えがそのまま放置されていたり、窓が妙にくもっていたり、何もかも途中で放りだしてしまったようななげやりさがあって人が住んでいるのに廃墟のようだ。
居間を抜けた先に使ってない部屋があって、そこで休んでいると母がドアをノックしてきた。何も話したくないので無視しているとノックが強くなってきて、しまいには拳を叩きつけているような雰囲気に。怖くなってドアを開けると、生気のない暗い顔の母がいる。話を聞くと、父を怒らせてしまって、このまま離婚されるのではないかと不安でたまらないのだそう。
母は普段はおとなしいのだけど、ときどきスゴく怖くなる。
いつもならそんなことで煩わせないで欲しい、とキツめにいさめるのだが、今日はヘンだ。怖くなって、家を出て車に乗り込み、父に電話を。父から事情を聞くと、母から5分おきにメールが2、30通も送られてきて、それでメールをおくらないように、という内容のメールを送ったのだそう。
母にはそういうところがある。
電話を切ってそのまま車の中でウトウトしていたら、女の悲鳴が聞こえてきた。ウチからだ。
中に入ると母が父の名前を呼びながら家の中を歩き回っている。泣いているようだ。普通じゃない。怖い。怖くて仕方がない。逃げようかとも思ったけれど、何かあったら一生、後悔に苦しむことになるだろう。
家のパソコンで近くの精神科の救急外来を調べて電話し、母に今から父のところへ行くから、と嘘をついて病院へ連れて行った。病院に向かう車の助手席で母はメソメソと泣き声で父の名前を繰り返している。僕も気がヘンになりそうだ。
なんとか母を病院の診察室へ押し込み、父と連絡をとろうとするも、ケイタイがつながらない。あのヤロウ、電源切ってやがる!!
そのまま母は鎮静剤を打たれ、今晩は入院することになった。父と連絡がついたのは母がベッドに横たわって病室に運ばれてから50分後で、僕はその間、薬くさくて非常灯の点滅する音だけが響く待合室でいた。
明日、父が病院に母を迎えに行くそうだ。僕は知らない。もう係わり合いになりたくない。
なんだかスゴく疲れた。眠ることにする